愛に生きる

日常生活から少し離れて内省の時間にふと浮かんだ思いを記します。

酒井雄哉師の本を読んで

 3週間前に取り上げた、千日回峰を2度達成した酒井雄哉さんの本を読んでみました。新書を3冊読んだのですが、簡単な言葉でご自身の体験を書かれたものばかりで、心に伝わってくるものがありました。

 さまざまな行のことについて触れられていますが、地球を2周以上歩いたというその歩行行の中で思ったこと、感じたことが多く語られています。酒井さんは40歳の時に出家されるまで、多くの職業を転々としふらふらとしていたようですが、出家したあと自分にも何か柱となるものが必要だということで行の世界にはいられました。若い時分からあまり勉強していなかったのであまり大層なことは言えない、しっかり勉強していたらもっとしっかりした言葉を残せるのにとおっしゃっていますが、難しい言葉を用いないその語り口が多くの人の心に何かを伝えているのだと思います。

 若い時は苦労をされたそうですが、晩年には過去の多くのことを忘れてしまったとおっしゃっています。懸命に行に励んでこられたことで知らず知らずのうちに過去を克服されたのでしょう。昔を振り返って「無駄なことは何もない」とおっしゃっています。

 彼は晩年顎の辺りのガンを患われましたが、人に言われるまで医者にかかりませんでした。それで手遅れになったのですが、自分だけの体ではなく、皆の体だと思って医療を受けていたほうがよかったのかもしれないとおっしゃっています。私もこの歳(40代半ば)になって思うのですが、多くの方々の支えがあって人は生活を営むことができます。自分の体も自分だけの体だと思わず、皆様の体だと思って日々肉体の管理をするのがいいのだと気づくようになってきました。見かけも華美にならず清潔さを保ち、自分が着たいからというだけでなく、他の人のことも考えた服装を心がけるのがいいのでしょう。

 酒井さんは比叡山だけでなく天台宗の先達の方々のゆかりのある地を歩き続けられました。彼は比叡山に育てられ、比叡山を体現し、そして後からくるものに比叡山を伝えていった一人でした。歴史の中に生きるということも彼から教わることができます。多くの人は比叡山のような歴史になるある環境で生きてはいませんが、さまざまな文化や伝統が私たちひとりひとりの中に流れ込んでいます。ある程度の年齢に達したならば、それを自覚して若い人に少しずつでも伝えていく責務があるように感じます。

 人にとってちょうど良いペースは歩くペースだとおっしゃっています。今は飛行機や電車、車が当たり前の時代ですが、人間が実のある仕事をし、平安を保ち、愛と真実に生きていくには、歩行のペースくらいで生きるのがふさわしいのでしょう。歩行のようなゆっくりとしたペースで生きているとあまり華やかさはないかもしれませんが、きっと年をとった時に真の満足と充実を得られるように思います。

 他にも多くのことを彼の本から学ぶことができます。彼は自分のためだけに行をしていたのではなく、同時代に生きる人々とともに歩み続けたのだと思います。