井戸掘り

 なぜその本を手に取ったのか覚えていないのですが、世界一の長者になったことのある三大投資家の一人ウォーレン・バフェット氏の本を少し前に読みました。この人は非常に着実で基本に忠実な方で、世に言う金の亡者とは異なる人でした。生活は質素で、贅沢な生活をしたいなどという理由でなく、単にある種のゲームのようにお金儲けが好きで、そしてそれを通じて周囲の人も豊かになって欲しいと考えているような人でした。

 その本の中に面白い話がありました。それは「能力の輪」という話です。少し引用します。
 「バフェットは、ある事業を深く理解すれば、他の事業に手を出す必要はないと断じている。そして「能力の輪」を重視している。自信のある能力の輪をもっていれば、そこから踏み出す必要もなく、輪を広げる必要もないというのである。(中略)バフェットも、優れた経営者の資質として、理解できるものを守り続けることをあげている。実際に彼自身が投資の天才だが、投資以外のものに手を出すことはしない。」(ウォーレンバフェット:巨富を生み出す七つの法則)

 理解できるものを守り続けること、それを踏み越えることをしないこと、この姿勢を徹底しているところから学ばなければいけないと思いました。あることの本質や価値を十分に理解することによってのみ、彼は富を得ていたのですが、富を目指さなくても(富を目指す人なら彼のありようは大いに学びになるでしょう)、一つのある分野について十分に理解しているならば、人は人生でそう困ることはないような気がします。あらゆるものの本質とは、その底の部分ではほとんど等しく、一芸に通じた人は他の領域をよく理解できるといわれますし。

 最近関心をもって読んでいるコラムに「福岡伸一動的平衡」というものがあります。1週間ほど前に蝶の話が出ていました。蝶のアオムシは種類によって食べる草がそれぞれ異なっているそうです。それは限られた資源をめぐって無益な争いが起きないように長い年月をかけてそれぞれの種が互いに譲り合い、自然界の中に自分の生きるべき小さな隙間を見出したからだと福岡さんはいいます。

 一箇所で深く井戸を掘り続けることで水が得られる。何箇所掘ってもそれが浅ければ水を得ることはできない。だから一箇所を掘り続けなさいとのアドバイスがあります。若い時期はその井戸掘りに専念するにふさわしい時期なのでしょう。

 私は人生の半ばを過ぎ、20歳のとき以降また大きな転機に差し掛かっているのかなと感じていますが、今一度自分の関わる領域を確認するつもりでいます。地域での活動に関わりたいのですが、どのように関わっていくか模索中です。