愛に生きる

日常生活から少し離れて内省の時間にふと浮かんだ思いを記します。

数学

私は学生時代に数学を専攻していました。どこに国でも1+1=2であり、社会科学、人文科学に比べ学問に普遍性があると感じていたからです。数学が苦手な人はそう思わないかもしれませんが、数学はとても創造的な学問です。私はその面白さのごく限られた一端しかのぞき見ることはできませんでしたが、今振り返って、数学を専攻してよかったと思っています。

数学者の中には一風変わった人がいます。普通の人は、この世が現実で、数の世界の方がつくりものだと考えますが、少なくない数学者が、数の世界こそ真実の世界でこの世は幻だと感じています。真実と幻に関して見方が逆転しているのです。私は彼らの気持ちが理解できます。

「自分の見方、自分の意図のとおりに世界は現れる。宇宙(スルシュティ)は人の見方(ドリシュティ)に基づいている。」

アインシュタイン相対性理論を作りましたが、その元となったのは非ユークリッド幾何学です。ユークリッド幾何学とは縦・横・高さなどがまっすぐの世界の幾何学です。非ユークリッド幾何学は曲がった世界の幾何学です。アインシュタインに先立って、数学者たちは曲がった世界を記述する幾何学を作り出していました。アインシュタインは数学をよく理解した科学者だったので、非ユークリッド幾何学が意味しているものを見抜き、それを通じて世界を見ました。顕微鏡で焦点を合わせれば微小なものがよく見えるように、望遠鏡の焦点を合わせれば遠くの星がよく見えるように、アインシュタインは非ユークリッド幾何学というレンズを通して世界に焦点を合わせました。そして彼に見えた世界というのが、相対性理論に記述されている世界、つまり、曲がった時空を持つ4次元世界でした。

ガリレオは「世界は数学という言語で書かれている」といいましたが、それはつまり数学というレンズを通じて世界を見ているということです。これまでは物理学の世界で数学が主に用いられてきましたが、現代においては、経済現象や、生物現象に対しても数学という道具が積極的に用いられています。

少し前の新聞にドイツのメルケル首相のことが取り上げられていました。彼女は物理学を専攻し、数学がとてもよく出来たそうです。問題について論理的に考えることができ、政治課題に対しても、現実的な目で見て着実な取り組みをしているようです。彼女のような仕事の仕方に私は共感を持ちます。少し前政治には主義主張が欠かせないものでしたが、そういうものよりも、政治にはリアリズムと実務的問題解決能力が求められていると思うからです。メルケル首相は現在ヨーロッパで最もリーダーシップのある政治家とみなされています。

アメリカにおいて2012年11月の選挙が行われた時、50州すべての当選者を予測し的中させた統計分析家がいます。彼によれば、予測とは大量のデータの中から一定のパターンを見出す作業(ノイズのなかからシグナルを見つけ出す作業)であり、優れた予測には、自己認識、謙遜、そして細部に目を配る必要があるそうです。数学の本質はあいまいなものに形を与える点にあるように思いますが、彼も数学的素養を十分に備え、物事をしっかりと見つめることのできる人の一例でしょう。

他の分野と同様、数学の才能がある人はごくわずかです。しかし数学の学習を通じて、ある物事を全体的に把握し、それに対して論理の裏付けをもたせる癖を身につけることができたら、生活のさまざまな面で役立ちます。これこそ数学の効用の最たるもののように思います。実用とは最も遠い学問のようでありながら、ひょっとすれば、これほど人々の意識に影響を与えうる学問は少ないかもしれません。