愛に生きる

日常生活から少し離れて内省の時間にふと浮かんだ思いを記します。

3人の写真家

私は20年以上前、ジャーナリズムに関心を持っていました。私の学生時代のアイドルはロバート・キャパでした。ロバート・キャパハンガリー出身の戦場カメラマンで、第2次世界大戦前後の戦争の記録を多く残しています。「崩れ落ちる兵士」や「ノルマンディー上陸」などは不動の名声を得ています。また彼は戦争を記録する合間に、多くの子どもたちの写真も残しています。
キャパとは「墓を掘る鍬」という意味です。キャパは若い頃熱烈な恋をしました。相手の名前はゲルダ・タローといいます。キャパはゲルダを愛し、二人を分け隔てるものは二人が埋葬された墓を掘る鍬しかないと言いました。そこから名前を取り、彼はキャパと自称しました。ゲルダ・タローも実は本名ではありません。ゲルダはパリで岡本太郎の芸術に触れ非常に感銘を受けました。彼女は女性ですが、岡本太郎の名を自分につけました。キャパはゲルダに写真を教えましたが、ゲルダはそのカメラでスペインの内乱を取材している時、戦車に轢かれて亡くなりました。あまりにも若い死でした。キャパはそれ以降、本当には人を愛することはなかったといいます。
キャパは非常に社交的な人で、世界中の有名人と知り合いでした。ヘミングウェイやグレースケリー、周恩来蒋介石、オランダかどこかの王室の方とも交際がありました。日本にも来たことがあり、キャパは日本が大好きになり、パチンコなどもしていたそうです。キャパは日本からインドシナ戦争を取材に行き、そこで地雷を踏みなくなりました。彼は伝説の人でした。

キャパは生きているのが不思議なくらい最前線への従軍を繰り返しましたが、キャパに匹敵するほどの危険地帯をくぐり抜けた戦場カメラマンが日本にいます。それは石川文洋さんです。石川さんはベトナム戦争の戦場を取材し、貴重な記録を残されました。ベトナム戦争が終わってからは新聞社にこわれて新聞社勤務となりましたが、後に新聞社をやめ、フリーのカメラマンとして活躍されています。世界の紛争地帯に出かけることもしばしばですが、アメリカやアフリカ、日本、北朝鮮その他世界各地の人々の日常をファインダーに収めています。
私は自分がカメラで写真を撮ることそのものには強い関心はなく、ルポルタージュの類の方に関心を持っています。石川さんはカメラマンではありますが、彼の文章は、現在の私にとって理想的なものです。読めばわかると思うのですが、本当に淡々とした文章です。現在の扇動的ともいえるジャーナリズムに馴らされた人々から見れば、なんの刺激も感じないほど当たり前のことを当たり前に書いてある文章です。私はジャーナリズムの世界の人間ではありませんが、もし将来なにかの記録を残すことがあるならば、彼の文章を見習いたいと思っています。
石川さんはまだご存命で仕事を続けていらっしゃいますが、ご自身の仕事だけでなく、多くの後進を育てることに力を注いで欲しいと思っています。

もうひとり私が心から尊敬する仕事を残しているカメラマンがいます。星野道夫さんです。星野さんは報道の世界の方ではなく、アラスカに移り住み、アラスカに住む人々とアラスカの自然を記録に残された方です。アラスカはとても四季のはっきりしたところで、冬は一日中太陽が昇らず、マイナス50度まで気温が下がります。逆に夏は一日中陽が沈みません。クジラやカリブーという生き物を狩って食事としており、また多くのベリーを採取したりもしています。オーロラも見ることができます。
私は十数年前まだパソコン通信をしていた頃、ある人から星野さんのことを教えてもらいました。その方は星野さんを「とても眼差しが優しい方」だといって私に本を読むことを勧めてくれましたが、まったくその言葉通りに、星野さんの文章はアラスカの自然や人々に対する心からの愛と優しさにあふれています。
アラスカはその自然が厳しいがゆえにあまり多くの人が住んでおらず、開発からも取り残されていましたが、資源があるということでここにも現代社会の影響が次第に及んできました。人々の心にも大きな影響を与え、アルコール中毒などの問題を抱える人も増えているそうです。
星野さんはシベリアでクマに襲われて亡くなりました。もう少し彼の写真と本を読む楽しみを味わいたかったなという思いもあります。地球温暖化でアラスカの様子もだいぶ変わってきていると思うのですが、彼が生きていたならそれらをすべて記録に残していてくれたろうにと思うと、とても残念です。。