集団の知性

最近面白い本を読みました。「『みんなの意見』は案外正しい」(角川書店)という本です。世の中には、優れた知性を持つ人に勝る人はいないと考える人がいるかもしれませんが、集団の知性はそれに勝ることが多々あるということを、いろいろな例をあげて示している本です。
たとえば、ある見本市で雄牛の重量当てコンテストが行われたそうですが、一般の人が参加して平均をとってみたところ1197ポンドだったが、実際は1198ポンドだった、という例や、スペースシャトルチャレンジャーが爆発した時、まだ原因がはっきりとわかっておらず公表もされていない段階で、チャレンジャー発射にかかわった主要企業4社の中から株式市場は瞬時に原因企業を見抜いたという例などが挙げられています。

この本では「正しい状況下では、集団は極めて優れた知力を発揮するし、それは往々にして集団の中で一番優秀な個人の知力よりもすぐれている。すぐれた集団であるためには特別に優秀な個人がリーダーである必要はない。集団のメンバーの大半があまりものを知らなくても合理的でなくても、集団として賢い判断を下せる。」ことを主張していますが、人生の折り返し点を過ぎた私は、ここ最近個人の能力の限界を感じ始めていたところでした。しかし、個人個人は真理の一部分しか知らなくても、みんなの知性を総合すれば、より大きな真理を俯瞰することができるということは、私にはとても力強いメッセージでした。

インドの古代文献ヴェーダには「サハスラシールシャープルシャハ、サハスラークシャサハスラパート」(至高のプルシャ(神)は千の頭と千の目と千の足を持つ)とうたっていますが、神は人類すべての頭を通じて考えている、ということをうかがわせます。

ニュートン万有引力を発見しましたが、ある本によれば、それはニュートン個人の天才現象ではなかったそうです。ニュートンの多くの支持者たちが、世界各地へ出向き、様々なデータを測定し、それらの支えがあってニュートン万有引力へとたどり着いたそうです。すべての知的成果は、最終的には個人が表現するものかもしれませんが、優れた知性は、いつも集団現象だと思います。

「『みんなの意見』は案外正しい」の中では、なぜグーグルは適切な情報を検索できるのかを説明したりしていますし、潜水艦が沈没した時、沈没個所を広大な海域のなかで探す際、集団の意見を統計的に処理してほぼぴったしの地点を探り当てた例なども挙げられています。「私」の能力を超えた「私たち」の力にまだ大きな可能性があることを示唆してくれた、とても素晴らしい本でした。