役に立つ経済

 かつてファンタジーを読むことがあり、その一人がミヒャエル・エンデでした。彼は優れたファンタジー作家であっただけでなく、文明批評に関してもさまざまな気づきを与えてくれる人でした。彼はしばしば、ファンタジー=想像力の大切さを強調していたのですが、現代の文明社会においてこの想像力が急速に失われていると警告していました。私の実感としては、自らに精神の自由がないと感じている人は想像力を失っている可能性が高いと思います。精神=マインドを暴走させてはいけませんが、いつも自由な発想ができる状態にあるかどうかは大切なことです。

 そのエンデが経済について触れた言葉をふと見つけたので、それについて書いてみたいと思います。
 「<経済>の機能は、何かに役立つだけでよいのです。それが今日では、支配的な役割を果たしてしまっている。<経済>が果たせる使命は、文化のための前提を提供してくれることだけなのです。」『芸術と政治をめぐる対話』

 本来仕事というのは、何らかの形で多少なりとも他の人の役に立つ活動のことです。人々によってなされたそのような仕事の全体の中を貨幣=お金=交換手段がめぐっています。経済の機能はさまざまであっても、経済の本来のありようは上に書いた通りではないかと思います。<経済>は何かに役立つだけでいい。このシンプルな基本を忘れたら、人はお金を得ることのみを目的として働き出すようになり、どこかバランスを欠いた生活を送ってしまいかねません。

 お金にはさまざまな機能がありますが、お金がある程度あれば、生活をコントロールしやすくはなります。生活が守られてくれば、そこで文化を高めることに時間を注ぐことができます。お金をたくさん稼ぐことにどこかで上限を設け、文化活動に関心をもつほうが、人生の豊かさが得られるでしょう。

 物事が複雑になってくると、商売も人生もうまくいかなくなってくるといいます。複雑なことを考えるのが少し苦手な私は、状況のコントロールを失いそうになったときにはことさらシンプルに考えるよう心がけています。同時に、複雑なことを考えたり言ったりする人と関わるのも多少苦手です。

 国の経済を預かる人や大きな会社を経営している人はいろいろ頭を抱える問題がたくさんあるのでしょうが、普通の庶民は経済についてもシンプルにとらえるのがいいと思います。