グナ(特性)

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現代日常生活で使われる言葉の多くが仏教に由来しています。中国の儒教などからも、仁や孝、礼、忠などの言葉が伝わってきました。また、幕末・明治維新以来、西洋で使われる言葉の多くも日本で使われるようになってきました。他国の概念の多くが日本の生活に溶け込んできました。私たちは、それを有用だと思っています。

 今日は、インドの概念の一つ「グナ」について書きたいと思います。グナは特性というような意味です。これは世界最古の聖典ヴェーダにも出てくる非常に古い言葉です。また5000年前に述べられたというクリシュナの『バガヴァッド・ギータ』にも、グナの哲学がたくさん述べられています。

 グナ(特性)には、サトワ(浄性、清らかな性質)、ラジャス(激性、激しい性質)、タマス(鈍性、鈍い性質)の三つがあります。人間の一日を見てみればわかりますが、朝方や夕時は静かで穏やかでありサトワの時間帯とされます。日中は仕事に携わるラジャスの時間帯、そして夜は睡眠をとるタマスの時間帯とされます。世界はこの三つの性質が交じり合って出来ているとされます。

 私は最初、この三つの区分けは、人間の恣意的な区分けとあまり違わない印象を持っていたのですが、次第にこのグナの理論のすばらしさに気づくようになってきました。この三つの区分けは、世界を説明するのに、非常に役に立ちます。

 日本人はおそらく世界の中でも働き者です。とても行動的です。就労時間も長いですし、休みの日にはショッピングに出かけたり、スポーツをしたりして、いつも何かをしています。これはラジャスです。そしてまたすべての人ではないのですが、ギャンブルやお酒に溺れたり、怠惰な生活をする人もいます。これはタマスです。日本人はこの二つの性質は良く理解できると思うのですが、サトワ(浄性)な生き方というものを理解・実践しにくい人がいるのではないかと思います。サトワは怠惰でもなく、激しく動いている状態でもありません。

 どの国にも、サトワな人は多かれ少なかれいます。彼・彼女らは清らかな生活を送っています。宗教者だけでなく、一般の人でも生活を律し、感覚を清め(善いもののみを見たり、食べたりする)、そう激しくはないのですが自分自身や家族・社会が必要とする仕事に静かに、しかし着実に取り組んでいます。信仰心も備え、他者との関係も穏やかで協調的です。バランスのとれた人格を備え、生活を送っています。

 日本人がサトワ(浄性)な性質を実現しにくい大きな理由は食べ物です。人間の性質は食べ物に多くよっています。また、身近にそういう人がいなく、見て学ぶことが難しいこともあるかもしれません。

 例えば日本の宗教の事情を見てみればわかります。宗教の4分の3は人格形成であり、宗教者は立派で穏やかな性質を身につけていなければなりません。宗教は人を育てることによって社会に貢献すべきであり、立派な人を多く育てることが社会の平安にもつながります。しかし、日本の宗教の一部には、政治に積極的に関わっているものがあります。サトワであるべき宗教がラジャスな性質を助長しているのです。また、葬式仏教の言葉のように、単なる儀式になっている面もあります。

 タマス(鈍性)を活動によって克服しラジャス(激性)の段階に向上しますが、そこからさらにサトワ(浄性)の段階に到達する必要があります。しかし、サトワというものがなかなかイメージしにくい中、多くの人がラジャスとタマスの間を言ったり来たりしています。

 『バガヴァッド・ギータ』にはこの三つの性質についてたくさん書かれています。
 「サトワは、汚れのないものであるから、輝き照らし、患いのないものである。それは、幸福との結合と知識との結合によって束縛する。
 ラジャスは激情を本性とし、渇愛と執着とを生ずるものであると知れ。それは、行為との結合によって主体を束縛する。
 一方、タマスは無知から生じ、一切の主体を迷わすものであると知れ。それは、怠慢、怠惰、睡眠によって束縛する。」(14章6~8)
 「最初は毒のようで結末は甘露のような幸福、自己認識の清澄さから生ずる幸福、それはサトワ的な幸福と言われる。
 感覚とその対象の結合から生じ、最初は甘露のようで結末は毒のような幸福、それはラジャス的な幸福と伝えられる。
 最初においても帰結においても、自己を迷わせる幸福、睡眠と怠惰と怠慢から生ずる幸福、それはタマス的な幸福と言われる。」(18章37~39)

 ラジャスはタマスよりも好ましく、サトワはラジャスよりも好ましいのですが、実際にはこの三つがバランスを取っている時に、人間生活はうまく回っています。扇風機の三つの羽が調和して風を送るようにです。
 三つのグナ、特にサトワとはどういうものなのか、清らかな生活を送るにはどうすればいいのか、このことについて考えることで、生活の方向が間違っていないか幾度か確認することができました。

※ "Darkness cannot drive out darkness; only light can do that. Hate cannot drive out hate; only love can do that." -Martin Luther King Jr.
「暗闇は暗闇を取り除くことはできません。光だけがそれを取り除くことができます。憎しみは憎しみで取り除くことはできません。。愛だけがそれを取り除くことができます。」(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア